僕はまだ苦しいんだよ

今日は 2月27日
Mの父親が転倒して骨折し寝込んで、それを見たMが動転し、薬を飲まなくなってから、2週間あまりが過ぎた。
時々、思い出したように取り出して ランダムな飲み方をしていたので、
Mが自分の意志で薬をやめたのか、ショックや緊張を感じ過ぎて飲むことを忘れてしまったのかは、今となってはわからない・・・
けれども、どちらにしてもMは、もう3日ぐらいは全く 向精神薬を服用していない。
恐ろしい禁断症状を通り抜け、無事に断薬に成功したようなのだ。
それは あまりにも急激に起こったことで、医師に介入してもらうタイミングさえ無かった。

Mの頬にも唇にも赤みがさし、異常だった食欲は落ち着き・・・と言うよりむしろ 食べ物にあまり関を示さなくなり、甘い飲み物や氷を欲しがる回数も ぐんと減ってきた。
その結果として、ぼよんぼよんだったウエストのぜい肉も落ち、痩せ始めている。
3日前には 入院中からため込んでいた大量のゲームソフトとゲーム機とゲーム雑誌を 突然「いらない」と言い出し、私たちは言われるままに片付けたのだけど、本当にゲームに興味をなくしてしまった。

今のMは、私たちが十数年見続けてきた入院中のMでも つい先週 断薬の苦しみを通っていた時のMでもない。
どちらかと言うと、幼い頃の 病む前のMの姿に戻っってしまった。
自閉症の典型的な症状を呈している とも言えるのかもしれない。
生活習慣について言うなら、例えば、パジャマをいつもの場所に片付けたり、お茶を飲むのに使ったコップを自分で洗うなどの 服薬中はできていた簡単なことが、できなくなってしまった。
コミュニケーションについてもそうだ。
今まで、私たちがたまに見聞きしていた、それなりに大人びた態度や言葉づかいは、
時に驚きや感動をもたらしてくれた 霊的で不思議な 洞察的な発言も含めて、影をひそめてしまった。 

どうしてなんだろう・・・?

きょう私は、ふと、苦しかった十数年を振り返って Mに 
「苦しい思いをさせてごめんね。」
と言ったのだけど、その時のMの返事に、ハッとさせられるものがあった。
Mは、
「母さん。今も、苦しいんだよ。」

そう言われて、私は 言葉を失ってしまった。

Mは確かに 薬をやめることには成功したようだ。
でも 中毒から解放されたから 重い作用から解放されたから それで良い 
というものではない。

Mには もっともっと 大きな必要があるのだ。

たまにしか出て来れない自分の「心の部屋」から、Mは もっと自由に出入りしたい
もっと広い所に出たい 
と思っているのかもしれない。

それは もしかしたら 多くの自閉症の人たちの苦しみにつながり 重なるものであるのかもしれないと、思わされる。